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4期冒険報告

G100/07 オーク討伐 

クロを小屋で待ち続けた3年の間、
オイはずっと一人で狩りをして、
一人でご飯を食べて生活していたんだろうなぁというお話です。

今回は珍しくオイ視点で。

以下SS↓↓**************************

スッカリ遅くなっちゃった……。

今日は、『南の方に少し行ったあたりの遺跡』って話だったから
日帰りできるかなーって思ってたんだけど、
もう日付が変わっちゃったなぁ……。

「……サグと一緒にお夕飯食べられるかなって思ったのに……」

しょんぼりな気持ちが、ボクの足を遅くする。
ダメダメ。早く帰らなきゃ。

今日帰るよって言っちゃったから。
きっとサグが心配してる。

ボクがちょっと怪我するだけで、サグはスッゴイ心配するんだ。
酷い怪我だと、ボクよりサグの方が痛そうな顔してるんだもん。

けど、怪我を隠すともっと怒るんだ。
だから、今日狼とオークに切られたところも、ちゃんと見せないと……。

『ボク、今日は誰よりも先にオークチーフを見付けたんだよ』って
言ったら褒めてくれるかな?

頭撫でてくれるかな?

サグはあったかくて、お日様の匂いがするんだ……。


走っても、ほとんど音がしないふかふかの毛に覆われた両足で
いっぱい地面を蹴って、ボクは家まで戻ってきた。


家にはやっぱり灯りがついてたけど、
もしサグが寝てたときに起こさないようにと思って
そーっと鍵穴に鍵を挿す。

ほんの少しだけの音で、カチャンと鍵を回すと、中からサグの声がした。

「遅かったな」

「ごっ。ぎょめんなさい」

うう。また『ご』が『ぎょ』になっちゃったよぅ……。
サグ、時々ボクの事からかうから、
サグの前で失敗するの嫌なんだよね……。

部屋に入って扉を閉める。
あ。鍵も閉めなきゃだったよね。

カチャンと鍵をかけると、
向こうでカチャカチャと食器の音がしているのに気付く。

振り返ってみると、サグがボクのご飯を用意してくれていた。

「あれ? お皿が2つずつ……」

「ああ。もー腹ぺこだよ」

こっちを振り返らないまま、サグが疲れた顔でご飯をお皿に分けている。

「食べないで、待っててくれたの……?」

「まぁな」

あ。今サグの口がにこってなった!

途端に嬉しくなって、尻尾が勝手にパタパタ揺れる。

「こらこら、これから飯だってのに埃たてんなよ?」

「はーい……」

尻尾に意識を集中させて、パタパタを何とか抑える。

ううー。むずむずするよぅー……。

「あっお前また怪我してるな!?」

「あ……」

言うの忘れてた……。

「怪我してるときは帰ってすぐに言えって言ってるだろーが」

「はーい……」

口調よりずっと優しい仕草で、サグがボクを引き寄せる。

ボクの右腕をなんだか大切そうに持ち上げて
傷口を確認しているサグの身体に、鼻を近づけてみる。

やっぱり、お日様みたいな匂いだ。

そのままそうっと左肩からサグに寄りかかってみる。

サグはちょっとだけボクの事を見て、それからまた傷口に視線を戻した。

目を閉じてみる。


サグの傍はあったかいなぁ……。


いい匂いで、ぽかぽかしてて……何だか……。


……眠く……なって……くる…………――。


近くにいるはずなのに、
すごく遠くでサグが何か言っている声が聞こえたような気がした。


*************

「おい」

静かな声がボクを呼ぶ。
毛に覆われたボクの耳が、その声に反応して小さく震えた。

感情の全てを押し殺したような、その声の主が、
本当は優しい事をボクは知ってる。

「なぁに? クロ」

小さく首を傾げて返事をする。

「そろそろ夕飯にしよう」

見れば、机の上には2人分の食事が並べてあった。

ボクは、クロがボクのために用意してくれた
ふかふかのベッドから身を起こすと、
ひとつ伸びをして、それから身を振るわせる。
ちょうど毛が生え変わる時期で、
ボクの長い毛がパラパラとそこらに散った。

またクロが、ほんのちょっと困った顔をしてお掃除をするんだろうなぁ。

なんだか申し訳なくなって、床に落ちた毛を前足で軽く集める。

そんなボクを食卓から眺めていたクロが小さく呟く。

「気にするな」

顔を上げると、クロの口元が少しだけ弛んでいる気がして
何だか急に嬉しくなった。


なるべく小さく羽ばたいて、机の上に着地する。

クロのご飯からはほかほかの湯気が出ていたけれど、
ボクのご飯は、いつもクロがちゃんと冷ましてくれるので熱くない。

「食べようか」

クロの声に「うんっ!」と元気良く返事をして、
ボク達はいつものように2人だけの食事を始める。


*************


「オイ! オイって!!」


なんだろう。
ボクを誰かが一生懸命呼んでる。


「起きないなら、もう一人で飯食っちまうぞ」


え……。

そんなの嫌だよ!!

一人でご飯食べるのは、淋しいよ……。


誰かと、一緒がいい……。


クロと一緒がいいよ!!!


「クロっ!!」


目を開けたら、サグが吃驚した顔をして僕を見つめてた。


「……お前、こんな一瞬の間に夢まで見てたのか?」

「夢……?」


きこえないくらいに微かなため息が聞こえる。

ボクの耳でなければ、聞こえないはずのため息が。


サグにみつからないように、そうっと目だけでサグの顔を見上げる。
片手で頭を押さえてるサグの横顔は、とても悲しそうだった。


サグのため息は2種類あるんだ。

ボクに聞かせるためのため息と、聞かせたくないため息。


この小さな小さなため息は、
本当はボクが聞いちゃいけない物なんだろうな……。

だって、そんなときのサグは、いつもすごく辛そうなんだもん。


「ほら、食べるぞ」

サグの、ちょっとだけ不機嫌そうな、優しい声が降ってくる。

「うんっ」

ボクの尻尾が、また踊った。