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4期冒険報告

G100/04 オーク討伐

サグ視点です。

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深夜を回った頃、
ほんの少しふらつく足取りでなんとか自宅までたどり着く。

今日は、学校行事後の打ち上げがあって、
仲のいい教員同士でこの時間まで飲んでいた。

あ、れ……?

部屋には明かりもなく、真っ暗だった。

確か、オイは冒険に出る前
今日には戻ってくると言っていたはずだが……。

いやいや、予定が狂う事くらい、いくらでもあるだろう。
不意の、その、事態だとか……。

「――……っ」

嫌な想像をなるべくしないようにしながら、

オイに渡した鍵とまったく同じ鍵を鍵穴に挿す。

しかし、ガチャリと重い音を立てるはずだったそれは、
むなしく空回りした。

開いてる……?

ドアノブに手をかけようとした瞬間。
内側から物凄い勢いで開いた扉に吹き飛ばされる。

「サグっおかえりぃーーーっ!!」

元気良く飛び出してきたオイが、
きょろきょろと視線を彷徨わせた後、
地面に尻餅をついて顔を押さえている俺を見下ろし、首を傾げた。

「……あれ?」

「あれじゃないだろ!!!」

一瞬醒めかけた酔いがまた回ってくる。

ああ、いかん。こんな所でこんな時間に叫んだらご近所に迷惑だ……。

ぐるぐる回りそうな頭を支えつつ、何とかオイを部屋に押し込む。
戸を閉めると、オイに注意をしながらランプに火を灯した。

「お前、家に帰ったんだったら鍵は閉めろ」

「はーい」

まったく、返事だけはいいんだが……。
これでこの注意は3度目だった。

「あと、起きてるなら明かりくらいつけとけよ」

「う……うん……」

おや?

歯切れの悪い返事に振り返ると、
オイが少し離れたところから俺の持つランプを見つめていた。

なんだこの距離は。

ああ、もしかしてこいつは……。

「お前、火が怖い……のか?」

俺の言葉に一瞬ビクンとその尻尾までが逆立つ。

「う……ううん……そんなこと、ない、よ?」

全然説得力の無い返事を、肯定と受け止める事にして、
ランプを机の端に置いた。

なるほどな、それでいつも
夜はランプを置いているこっちの部屋に近付かないわけだ。

料理の最中に飛びついて来ないのもこれで納得がいった。

「また怪我してるじゃないか……。ほら、こっち来い」

よく見れば、オイの胸元には
赤い首輪とはまた違う赤さが残っていた。

そろそろ治療される事にも慣れてきたのか、
オイは大人しく消毒瓶を構える俺の膝に寄りかかってくる。

相変わらず消毒液の臭いには慣れないのか
必死で息を止めているオイを横目に、手早く治療を済ませる。

臭いが漂わないように、大き目の絆創膏で覆ってやると、
オイが小さく「ぷぁっ」と息を吐いた。

「終わったぞ」

「うん……」

治療が終わっても、オイは俺の膝に半分ほど体を預けたままだった。
いつもと少し違うオイの雰囲気に、なるべく、優しい声で問う。

「どうした?」

「あ……」

俺と目を合わせたラベンダー色の瞳が大きく揺れて、オイは慌てて俯いた。

「あのね、今日ね、サグがなかなか帰って来なかったから……」

俯いたままで話すオイの、ふわふわの耳が、羽が、小さく震えている。

「ボク……、サグが……クロみたいに帰ってこなくなったら……どうしようって……」

……まいったな。

「ああ悪かったよ。いや、なかなか抜けられないんだって、これがさ……」

しょうもない言い訳をしょうもないと思いつつ口にして、バンダナの上から頭をかく。

俺は一体いつの間に、こいつにこんなに懐かれたんだ……?
オイと過ごして来たこの半年を振り返る。

長かったようで、一瞬だったような、
あれこれ頭を抱える事は多かったけれど、
思い出すどのシーンにもこいつの笑顔があった。

俯いたままのオイの頭をそっと抱き寄せる。
途端に、わっと声を上げて泣き出したその背を、羽ごと繰り返し撫でてやる。

こんな傷をつけるような、自分より大きな相手と戦ってきて……。

俺ならきっと、怖くて逃げ出してしまうような思いを何度もして、
それでもケロッと毎回冒険に行くようなこいつが、
俺が帰って来ない事には耐えられないって言うのか……。

………………本当に、しょうがないな……。

俺は、泣き笑いのような苦笑を小さく浮かべると、
オイに聞こえないくらいささやかなため息をついた。