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4期冒険報告

G100/05 人型の怪物討伐

5月に、オイが「弓術入門者」の称号を貰って帰って来ました。
しかしオイは弓を持っていません(ぇ

というお話(ぇぇぇ?
前回と同じくサグ視点で。

以下SS↓↓**************************

「これ、こないだと同じコボルドにやられた傷じゃないのか?」

「うん、コボルドだった」

「今回は人型退治じゃなかったのか?」

「うん。けどコボルド出てきたよ?」

「ふーん」

そういうもんか。と適当に相槌をうちながら包帯を巻き終える。
確かにコボルドと一口に言っても
犬型やら爬虫類型やら妖精型やらあるもんな……。

「ほら、もういいぞ」

怪我をしていない方の肩をぽんと叩いてやると、
弾かれるようにオイが立ち上がって、そのぺたんこの胸を張る。

「あのねっボク今回きゅーづつぬーもんちゃになった!!」

「……もう一回言ってくれ」

「えっと、くーづつぬーもんちゃ。う? きゅーじつぬーもんしゃ! あれ?」

何が言いたい……。

赤い顔をして、必死で言い直していたオイが、
諦めたのか一枚の紙を差し出してきた。

そこには『弓術入門者』と書かれていた。

「ああそうか、お前弓使いだったな」

そこまで言って、ふと、オイの弓を見たことがないのに気付く。

「……お前……弓使い、なんだよな……?」

俺の問いに、オイは首を傾げて答えた。

「弓?」

「ちょっと待て! じゃあお前、今までどうやって攻撃してたんだ!!」

「うう? えーと、こー、ひゅーんて」

的を得ない擬音での返事に今度は俺が首を傾げる。

「……どういう事だ? 弓は使ってなかったのか?」

それでどうして『弓術入門者』になれるんだ。

「冒険ギルドの人が、弓に丸をつけたんだよー」

「……勝手にか」

「ううん、今まで何してましたかって言う質問で、
 ボクがね、山で動物を捕まえて食べてましたって答えたらね、
 それじゃあって……」

それでこいつの前職は猟師だったのか……。
そりゃ単に自分の食料を狩ってただけだろうが。

「それで、冒険ではどうやって敵を倒してたんだ」

まさか、見てるだけって事も無いだろうが……。
その爪で直接ガリッと……?
しかし、それで『弓術入門者』なんて称号が貰ってこれるんだろうか。

俺は、オイが気にしていつも隠している手に視線を落とす。
筒状に、手を完全に覆う形で巻かれた布。
そこには、大きなつめの生えた手が隠されている。

人間らしくないから。人間に怖がられるから。と
はじめは俺にも見せようとしなかった手だ。

手の指が5本でないこともコンプレックスのようだった。

オイの指は、足も手も4本だ。

いや、5本目の指もあるにはあるんだが、
手のひらから少しずれた手首の辺りから生えている。

「えっと、じゃあやって見せるね」

トトト。と部屋の真ん中へ進むオイ。

「危ないからね、サグは動いちゃダメだよ?」

「あ、ああ……」

何をしようというのか。

オイは、自分の尻尾を大きく反らせると、
部屋の壁目掛けて、勢い良く振った。

ヒュッ。

風を切る音が耳に残る。
と同時に、トスッと小さな音を立てて、
木の壁には紫色の針のようなものが刺さった。

決して細くない、そう、俺が頭に差しているボールペンと
同じほどの長さ、太さのある針が
深々と木の壁に食い込んでいるのを唖然と見つめる。

「分かった?」

なんて事無さそうな顔をして、首を傾げているオイを見下ろす。

「ああ、分かっ……た……」

俺の返事に、紫色の生き物が大きく動揺する。

「……こ、怖かった…………?
 ぼ、ボク、もうしないよ!! あの、ええと……」

あわあわと取り乱すオイの頭を撫でる。

「いやいや、すごいなと感心していただけだ」

やはり、その毛はふかふかしていた。

尻尾も、うっかり踏んでしまった事があるが、
そんなに硬い針が仕込まれているようには思わなかったがなぁ……。

「そ……そっか、よかったぁ……」

オイが心底ホッとしたように胸を撫でおろす。

正直なところ、得体の知れないものへの恐怖もあったが、
それでも、この小さな生き物が自分に危害を加えるつもりが
無いことだけは良く分かっていた。

「それじゃ、飯でも食うか」

そう言って、オイの頭から手を離す。
耳の辺りを撫で回されて、
ふにゃんと夢見心地になっていたはずのオイが、
壁に刺さっていた針に俺が手を伸ばした途端、鋭く叫んだ。

「触っちゃダメっ!!」

「え……?」

すんでのところで手を引っ込める。

良く見れば、その針の表面には鋭い鱗のような物がびっしり並んでいた。

これは、一度刺さったら抜けない。そういう針なのか……。

「あぶないよー、サグ。ボクが抜くからね」

隣から、オイがひょいと手を伸ばして難なく抜き取る。

大きな爪と爪で挟まれた針。それは確かに
人間がおいそれと触っていいようなものではない、凶器の姿をしていた。

一瞬背筋が冷たくなる、
その気配をオイに悟られないように、針から視線を外す。
すると、壁の向こうに見えないはずのものが映った。

「うわ! これ向こうまで貫通してるじゃないか!!」

それなりに厚みもあるはずの木の壁は、まるで覗き穴のように
その向こうの景色が丸く刳り貫かれている。

「お前、ちょっとは手加減しろよ」

俺は、じんわり滲んでくる冷や汗を隠しながら、
片手でぐりぐりと薄紫の頭をかき回す。
すると

「ぇえー。ボク手加減したもん」

と不服そうな声が返ってきた。

これでかよ……。

「PTの皆はね、ボクより、もっともっと強いんだよー?」

オイの攻撃が浮かないどころか目立たないとは……。
まったく冒険者ってやつはどういう世界に生きてる連中なんだ?

そう思ってから、この小さな少年を
そんな世界に入れてしまったきっかけが自分である事を自責する。

……こんな……。
こんな厳しい場所だと知っていたら、
あの時こいつに冒険者なんて勧めなかったのにな……。

俺の半分の肩幅も無い、小さなオイの肩に見える
自分が巻きつけた真っ白な包帯。

そこに微かに滲んだ赤が、酷く胸に痛かった。