※この番外はリル視点で書かれています。
[9話(2部)の始まる前]




フリーは、生まれる前からずっと、ボクと一緒だった。

雨が降り続く日も、ぽかぽかのお天気の日も。
お母さんの帰りが遅くて不安な夜も。
学校に行くのが憂鬱な朝も。

ボクのすぐ傍には、いつもフリーが居てくれた。

ボクが道に迷うときは、いつもフリーが手を引いてくれた。
フリーも一緒に迷子になっていても、
それでもフリーはボクの手をぎゅっと握って、いつもボクの前を歩いてた。

覚えてはいないけど、多分、お母さんのお腹の中に居たときから、
フリーはボクの手を握っててくれたんじゃないかと思う。


けど、あの日は違ってた。

フリーは、ボクの方を一度も振り返らずに、真っ直ぐコモノサマのところに走って行った。

ボクは今まで何度も見たその後ろ姿を、初めて、知らない人のように感じたんだ。


あの後。

ボクが気付いたときには、フリーはもう動かなくなってた。

ボクじゃなくて、コモノサマの手を、両手でしっかり握り締めたまま……。


だから、ボクは……。

……ボクは……。







修行もね、ちゃんと頑張ってるんだよ。

お父さんは、いつもあんなだけど、へらへらしてるだけじゃなかったんだよ。凄かったんだよ。
術を使うときとか、時々ね、お父さんとっても恐い顔になるんだけど、ボクちゃんと修練頑張ってるよ。

けどね、まだね、その……うまくできないんだけど……。

久居は、そのうち出来るようになるって、焦らなくていいって言ってくれるんだ。

フリーはボクがちょっと失敗すると、すぐぐりぐりーってしてたけど、久居は全然そういう事しないんだよ。
むしろね。とっても失敗しちゃったときとかは、すっごく心配してくれて、優しくしてくれるの。

あ、でもね、ボクは、フリーがぐりぐりーってするときにも
心配してくれてるのとか、ちゃんとわかってたよ。

…………たまにはね、フリーに、ぐりぐりーってしてほしいなって、思うこともあるんだよ……。

あっ、ゴメン! やっぱ無し!!
今の嘘だからね!!

フリーのぐりぐりを思い出しただけで頭痛くなってきたよ……。

だってさ、フリーって、ぐーにトゲ作ってぐりぐりするんだもん。やり方が凶悪なんだよ。


……あれ?

何の話してたんだっけ。

ぐりぐりの話しじゃなかった気がするんだけど……。


と、とにかくね!

ボク頑張るから!!

もうちょっとだけ、そこで待っててね。

コモノサマもいるから、一人じゃないから、淋しくないよね。