※この番外は久居視点で書かれています。
[7話後半、44ページと45ページの背後]



「うわぁぁぁぁぁんっっどうしようぅぅぅぅ……」

リルのお母様が菰野様と会話を始めた後ろで、
リルは目に溢れんばかりの涙を溜めて、頭を抱えていた。
その手には、私の襟巻が握られている。

「リル、落ち着いてください。まずは周囲に落ちていないか捜してみましょう」

半ばパニックに陥りかけているリルを驚かさないように
そっと視界に入っていくと、リルがそのままの姿勢でコクリと頷いた。

「うん……」

山に入る直前で、リルは一度転んでいる、
倒れた彼を引き上げたとき、一瞬あの石が目に入った。
(石が落ちているとすれば、あそこからここまでの間ですね……)

ほんの一瞬の回想から戻ると、
リルが、私の目の前に襟巻を両手で差し出すところだった。

「これありがとうー。とってもふかふかだったー♪♪」

何だか少し的外れな気もする、手触りへの感想と共に渡された襟巻を受け取ると
リルの残した微かな温かさが伝わってきた。
瞬間、あの日の強烈な後悔が胸をよぎる。
あの時……もし、私が弟の傍を離れる前に、もう少し気を配ることができていたら……
後には、幾度となく繰り返された景色が続く。
絶望、慟哭。縋り付く思いで抱き上げた弟は、雪に晒され、既に凍りつくような冷たさだった。

「久居?」

リルの声に慌てて顔を上げる。

「ふかふかだったよ?」

何故そこを繰り返すのか、理解に困るところではあったが、
とにかく返事をする。

「それは、よかったです」

ぎこちなくならないよう、慎重に笑顔を作ると、
リルの、真っ直ぐな微笑が返ってきた。

「うんっ♪♪」



この笑顔が傷付かなかった事を、誰にともなく感謝しながら
どこか弟を思わせる、その人懐っこい横顔を見つめる。

リルは、早速石捜しに取り掛かっていた。