「うわぁぁぁぁぁんっっどうしようぅぅぅぅ……」 リルのお母様が菰野様と会話を始めた後ろで、 リルは目に溢れんばかりの涙を溜めて、頭を抱えていた。 その手には、私の襟巻が握られている。 「リル、落ち着いてください。まずは周囲に落ちていないか捜してみましょう」 半ばパニックに陥りかけているリルを驚かさないように そっと視界に入っていくと、リルがそのままの姿勢でコクリと頷いた。 「うん……」 山に入る直前で、リルは一度転んでいる、 倒れた彼を引き上げたとき、一瞬あの石が目に入った。 (石が落ちているとすれば、あそこからここまでの間ですね……) ほんの一瞬の回想から戻ると、 リルが、私の目の前に襟巻を両手で差し出すところだった。 「これありがとうー。とってもふかふかだったー♪♪」 何だか少し的外れな気もする、手触りへの感想と共に渡された襟巻を受け取ると リルの残した微かな温かさが伝わってきた。 瞬間、あの日の強烈な後悔が胸をよぎる。 あの時……もし、私が弟の傍を離れる前に、もう少し気を配ることができていたら…… 後には、幾度となく繰り返された景色が続く。 絶望、慟哭。縋り付く思いで抱き上げた弟は、雪に晒され、既に凍りつくような冷たさだった。 「久居?」 リルの声に慌てて顔を上げる。 「ふかふかだったよ?」 何故そこを繰り返すのか、理解に困るところではあったが、 とにかく返事をする。 「それは、よかったです」 ぎこちなくならないよう、慎重に笑顔を作ると、 リルの、真っ直ぐな微笑が返ってきた。 「うんっ♪♪」 この笑顔が傷付かなかった事を、誰にともなく感謝しながら どこか弟を思わせる、その人懐っこい横顔を見つめる。 リルは、早速石捜しに取り掛かっていた。 |