
第6話 藍色の真実
「それにしても、こんな所で会うなんてすごい偶然ね。
私、レクトはランタナに住んでるのかと思ってたわ」
デュナがレクトさんに笑いかける。
今ではなかなか見る機会も少なくなってしまったが、
友達や仲間に向けるデュナの表情には、スカイのそれと同じような気持ち良さがあった。
「あはは、たまには冒険もしてるよ。
僕だってまだ現役の冒険者だからね」
目を細めて苦笑するレクトさん。
前にあったときは軽装だったので分からなかったけれど、
鎧を身に付けたレクトさんの肩には、騎士である事を示すレリーフが施されていた。
5年の間に、剣士から騎士へとランクアップしていたのだろう。
それを、スカイが羨ましそうにキラキラした瞳で見上げている。
「いつも1人なの?」
デュナの問いにレクトさんがふんわりと答える。
「ああ、時々簡単な依頼をこなすだけだから」
「いつまでも1人でいないで……って、そう簡単には言えないわね」
デュナの明るい声が、後半少し落ち込む。
「いや、ありがとう。気持ちだけ受け取るよ」
レクトさんのなだめるような声に、
2人はほんの少しだけ淋しげに苦笑し合った。
幸運石歴史館からの帰り、依頼のお届け物を済ませて、
私達はクロッカスの掲示板の前に居た。
小さな掲示板には、それに見合う数の依頼書が貼られていて
隣の小さな窓口は呼び鈴を押さないと人が現れそうになかった。
「カッシアより少ないわねー……」
デュナが、限られた選択肢の中からトランド方面への依頼を探している。
フォルテとスカイもそれを横から覗き込むようにしていた。
後ろから覗けるほどの幅が、掲示板に無かったからだろう。
町と呼ばれるクロッカスだけれど、
上り坂の突き当たり、道の行き止まりにあるという場所柄のせいか、
首都と、国の入り口を結ぶルート上にあるカッシアよりも依頼が発生しづらいのだろう。
カッシアは村というわりには大きく、こちらは町というわりには小さな宗教都市で
そこで暮らす人の数も、カッシアの方がずっと多かった。
「あれ、これ届け先マーキュオリーさんのとこじゃないか」
スカイの声に、皆でその紙を覗き込む。掲示板の端に貼られた依頼書には
確かに見覚えの名ある前が書かれている。
「丁度いいわね。トランドで、マーキュオリーさんのところには寄るつもりだったし」
デュナが眼鏡に手を添える。
しかし、いつものようにそれを光らせる前に、手が止まった。
「けどこれは往復クエね……」
依頼書には、トランドへ商品を配達して、
代金をまたここまで届けに来るようにという内容が記されている。
期限も、往復には十分だったが、一度家に帰っている程の余裕は無かった。
「品物と代金は窓口預かりになっているみたいだから、ちょっと交渉してみるわね」
と、デュナが張り紙を剥がして窓口の小さなカウンターに置かれた呼び鈴を鳴らす。
デュナがやろうとしているのは、本来、クエスト管理局が預かっている品物を受け取って、
トランドへ往復した後、受け取った代金を窓口に渡し、そこで報酬を得るという手順を、
品物を受け取る際に予定されている代金を私達が代わりに払って報酬を受け取り、
トランドで受け取る代金で穴を埋めるという手順で依頼をさせてもらえないかという交渉だろう。
この交渉が上手くいくかどうかには、
私達の今までの依頼達成率による信頼が大きく係わってくる。
その点、私達の冒険達成率は100%だった。
無理のない、自分に出来るレベルのお使いクエばかりなので、当然といえば当然だけれど……。
あとは、商品の希少価値が高くなければ、おそらく交渉はうまくいくだろう。
「あんまり高いものじゃないといいけどね」
私の呟きに、フォルテとスカイが同意した。