第6話 藍色の真実


幸運石歴史館。
街の外れにある小さな建物に掲げられた看板には、
少し色褪せた緋色の文字でそう書かれていた。

「ここね」

デュナがその扉をカチャリと開ける。
思ったよりも軽い音で、扉は開かれた。

狭くて細い廊下を一列になって歩く。
古びた建物の落ち着いた匂い。
この静かな雰囲気は、人の居ない博物館といった所か。

入場料なども無く、入り口に人も居らず。
自由に解放されているらしい幸運石歴史館には展示室が3つあった。

1つ目の部屋には、幸運石……先程デュナ達が買っていた桜色の石だ。
それが発掘され始めた当初の鉱山の様子や、この町の歴史などが
パネルや当時使われていた道具の展示等で紹介されている。

その部屋をざっと眺めて、2つ目の部屋、
幸運石にまつわる幸運の奇跡の伝説や記録、逸話が紹介されている部屋を素通りする。

3つ目の部屋は、そこだけ少し天井が高くなっていた。

「これが、一番大きな原石。ってやつね」

部屋の奥中央にどーんと鎮座した大きな桜色の石。
私が腕を回しても抱きかかえられないほどの幅と、
私のかぶっているとんがり帽子をも上回る高さ。

デュナがその原石を上から下へと眺める。
その指先に、小さな風の精霊と大気の精霊が現れる。

あれ? こんな所で何をしようと言うんだろう……。

首を傾げている間に、その小さな精霊達はデュナの指先から放たれて、
1人はこの部屋の外へ飛び出して行き、もう1人はこの室内を隅から順にチェックし始めた。

「……デュナ? 何かあったの?」

私の声にデュナがぎくり。と振り向く。

……なんだろう。その不審な動きは。

「えーーーと……」

珍しく口ごもるデュナに、スカイとフォルテも注目する。

室内を調べていたらしい大気の精霊がデュナの元に戻って何かを伝える。

それを聞いたデュナの口元がニヤリと笑みを作り、
ぱっとこちらに向き直った時には、先程までのうろたえた感じも無くなっていた。

「ひとまず、この部屋には録音機器も録画装置もないようね」

いつものように怪しく眼鏡を光らせて言うその台詞は、
どう考えても悪い事を企んでいるようにしか受け取れない。

「ど、どういう事……?」

そこへ、建物の中をチェックしていたらしい風の精霊が戻ってくる。
デュナが報告を受けて、

「そして、この建物の中には今私達しかいない」

と、胸を張って言葉を続けた。

スカイが、片手でガシガシとバンダナ越しに頭を掻きつつ言う。

「何する気なんだよ。あんまり悪い事は……」

「なるべくバレないようにするわ」

スカイの言葉を遮って、デュナがきっぱり言い切る。

……それは、つまり、悪い事をするって事だよね?

引きつった表情でデュナを眺めると、デュナがフォルテを呼んだ。

「フォルテ、ちょっとここに手を当ててみて」

「え……」

フォルテが、デュナと、デュナに示されたその後ろの原石と、
その隣に大きく書かれた注意書きの間で視線を彷徨わせる。

「その……お手を触れないで下さいって……書いてある……よ……?」

戸惑うように問いかけるフォルテの言葉に、デュナがにっこり微笑んで言った。

「ええ、だからできるだけ目立たないようなこの辺を触ってちょうだいね」

デュナに指し示されたのは、確かに正面からは死角になっている
台座と石のすれすれの部分だった。

「ふ、ふええ……? えっ……と……」

フォルテが心底困ったような顔でこちらに視線を投げかけてくる。

助けを求めるフォルテに、私は心で謝りつつ、目を伏せて首を振った。
こういうデュナには誰も逆らえない。

隣ではスカイも、額を押さえて私と同じ対応をしていた。

「いいのかなぁ……」

私達がデュナを止めないのを見て、
おずおずと石に手を伸ばしながらフォルテが小さく呟く。

その言葉は、同時に私とスカイの心の声でもあった。